CEOと取締役会が、テクノロジーの変革を通して リーダーシップを発揮するためのプレイブック

Technology and InnovationBoard Composition and SuccessionTransformation InnovationBoard and CEO AdvisoryDevelopment and Transition
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4月 17, 2020
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エグゼクティブサマリー
ラッセル・レイノルズ・アソシエイツは、幾千ものクライアントとの対話に基づき、変動の激しさを増す状況下で企業の舵を取るCEOと取締役会を支援するためのフレームワークを開発しました。
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デジタルデバイドの解消:即刻対処すべき喫緊の課題

「デジタル・トランスフォーメーション」が話題になってから􏚲􏚱年が過ぎましたが、CEOと取締役会は、依然として、自社のレガシービジネスを変革し、テクノロジーとデータを活用した顧客中心の組織を構築するという課題に懸命に取り組んでいます。多くの企業では、今なお、自社のテクノロジーとデータの組織能力が十分に進化しておらず、顧客と結び付いた、統合された事業戦略を策定するための包括的アプローチを取るに至っていません。世界的なパンデミックが続くなか、デジタルデバイドの不利益を被る側にいるリスクは看過できなくなっています。ラッセル・レイノルズ・アソシエイツは、幾千ものクライアントとの対話に基づき、変動の激しさを増す状況下で企業の舵を取るCEOと取締役会を支援するためのフレームワークを開発しました。

取締役会とCEOがテクノロジーの変革を活用するためのプレイブック

01.2019年のMITの調査によると、取締役会にテクノロジーに精通した取締役が複数含まれていると、収益と収益率の双方で、市場標準を超えた業績の達成度が向上します。

02.CEOのサクセッションという難問に対処する‒企業のCEO後継者候補は、多くの場合、PL責任、或いはイノベーション/ディスラプションのどちらかの経験が豊富です。どちらも理想的とは言えません。企業は、後継者候補がこの􏚳つの分野にまたがり経験を積める、新たな役割を設ける方法を検討する必要があります。

03.統合された、オムニチャネルのアプローチを通して顧客と直接つながることで、顧客体験を飛躍的に向上させます。

04.財務、人事からサプライチェーンに至るまで、中核機能をデジタル化し、データの捕捉・活用により効率と組織能力を向上させ、インサイト(洞察)に基づく組織への変革を推進します。

05.最先端の組織は、テクノロジー企業と同じように行動します。柔軟で、安全かつ拡張可能なプラットフォームを開発し、CEO直属の、ただ􏚲人のリーダーがテクノロジーとデータの領域を主導します。

06.成功する企業は、よりアジャイルなカルチャーを、変革戦略の必須要素として重視します。

トップクラスの変革

以下に挙げるのは、テクノロジーが自社の全事業を推進する過程に対するリーダーシップの影響を包括的に捉え、その結果、重要な変革を達成した業界のトップ企業の事例です。以下の事例にはグローバルな大企業も含まれていますが、あらゆる規模の企業がこのような戦略を展開するのを私たちは目にしてきました。プライベートエクイティ業界でも、投資家はテクノロジーを運用するパートナーをチームに加え、ポートフォリオ全体の変革を推進しています。

歴史あるメディア・エンターテイメント企業が事業を再編し、新たにストリーミング事業を創設

  • 早い時期にテクノロジーおよびデジタル人材を取締役会に招致。フェイスブック社 COO、Sheryl Sandberg(ディズニー社取締役会在任時期:2010 年~ 2018 年)、ツイッター社CEO、Jack Dorsey(2013 年~ 2018 年)、オラクル社CEO、Safra Catz(2018 年以降)、イルミナ社CEO、Francis deSouza(2018 年以降)など。

  • ビジネスモデルを転換し、ストリーミングを事業に含めることを可能にする、テクノロジー企業の戦略的買収にフォーカス

  • デジタル人材を引き寄せ、彼らが組織の一員となり、長期的に成功できるように支援。

伝統的企業からデジタルを原動力とする企業に移行し、新たなフィンテック・プラットフォームを構築

  • テクノロジー人材を取締役会に招致。前アップル社 CFO、Peter Oppenheimer(ゴールドマン・サックス社取締役会在任時期:2014 年以降)。前ゴールドマン・サックス社オペレーションズ&テクノロジー・ディビジョナル・ヘッド、David Alan Viniar(2013 年以降)など。

  • フィンテック・プラットフォーム「マーカス」の構築。マーカスは当初、オンライン融資プラットフォームとしてサービスを開始し、その後、普通預金口座の残高は600 億ドルとなった。2020 年末までに、マーカスにより10 億ドルの収益計上を目指す。

  • 自社をテクノロジー人材にとって魅力的な組織にする。手始めにCEO が、ゴールドマンは「テクノロジー企業」であると宣言し、Charles Elkan(前アマゾン社マシンラーニング・ディレクター)とMarco Argenti(前アマゾン社IoT、サーバーレス、モバイル、AR/VR 担当バイスプレジデント)を採用。

伝統的なシューズメーカーが、デジタルにつながる顧客中心の企業へ

  • テクノロジー人材を取締役会に招致。デロイト社マネージングプリンシパル、Cathy Benko(ナイキ社締役会在任時期:2018 年以降)、IBM 社CMO 兼デジタルセールス担当シニアバイスプレジデント、Michelle Peluso(2014 年以降)、アップル社CEO、Tim Cook(2016年以降)など。

  • テクノロジーに精通した CEO が就任。新たに就任したDonohoe(前サービスナウ社CEO、前イーベイ社CEO) は、持続的な収益成長を目指し、デジタルエクスペリエンスと電子商取引に優先的に取り組む。

  • デジタルな顧客体験とデータ分析に優先的に取り組むことにより、デジタルプラットフォームと製品を通してD2C(直販)を推進。これが、パーソナライズされたデジタルチャネルでの販売強化につながり、D2C はナイキの収益の3 分の1 を占めるに至った。

店舗を基盤とする小売業者が、真の対顧客オムニチャネル・アプローチを開発

  • デジタル化により顧客中心主義を推進する役職を新設し、デジタルなサービス提供とオムニチャネル機能を開発。この役職には、前グラブハブ社CMO でグーグルエクスプレス社マーケティング・ヘッドの、Barbara Martin Coppola を任命。

  • 顧客満足度向上や顧客エンゲージメントから在庫管理、サプライチェーンに至るまで、中核機能をデジタル化し、新たなオペレーティングモデルを支援。

  • 信頼度の高いテクノロジー機能を構築。最高デジタル責任者、Barbara Martin Coppola直属の新任最高テクノロジー責任者、Susan Standiford(前ジールネットワーク社COO/CTO)が主導。

ハードウェアからソフトウェアに主軸を移し、IOT 中心に

  • テクノロジー人材を取締役会に招致。前 SAP 社 CFO 兼暫定 CHRO、Werner Brandt博士(シーメンス社取締役会在任時期:2018 年以降)、前SAP 社共同CEO、Jim Hagemann Snabe(2013 年以降)など。

  • 先進テクノロジーにフォーカス。石油・ガス事業を売却し、デジタルインダストリーとスマートインフラ事業に資金を投入。重点領域は、エネルギー効率、再生可能エネルギー貯蔵、分散電力、電気自動車。

  • 社内全体のカルチャーを変革。2014 年に「Vision 2020」という計画を開始。これにより、「オーナーシップ・カルチャー」をさらに醸成。

事業をあらゆる点で推進する、テクノロジーとデジタルの中核機能を構築

  • テクノロジー人材を取締役会に招致。グーグル社グローバル・カスタマー・ソリューション担当プレジデント、Mary Ellen Coe(取締役会在任時期:2019 年以降)、前アクセンチュア社マネージング・パートナー兼CFO、Pamela J Craig(2015 年以降)など。

  • 単一の分析プラットフォームにデータを統合し、研究室や製造部門のデータを共通の高度分析プラットフォーム上で活用することを可能にした。

  • 先進的なデジタルとテクノロジーを担当する役職を新設。組織再編によりテクノロジーとデジタルの機能を統合し、執行委員会メンバーに昇進したリーダーが単独で統括する体制に。

データ駆動型の顧客中心主義

  • CEO のサクセッションプランを改革。CEO 候補者の経歴では、カルチャー変革、顧客体験向上、顧客に関連するイノベーションの推進、データの効果的な活用などの先進的なスキルセットを重視。

  • 市場開拓とデジタル機能の整合。Atif Rafiq(前米国ボルボ社 CDIO)を販売&成長担当プレジデントとして採用し、単独のリーダーが、デジタル製品管理からユーザー・エクスペリエンス、変革推進まで、カスタマーライフサイクルに責任を持つ体制に。

  • データプールの統合と活用。多様な事業部門のデータを統合し、分析能力を向上させ、真にデータ駆動型の組織に。

幅広い機能をデジタル化し、世界で最もコネクテッドなビールメーカーに

  • テクノロジー人材を取締役会に招致。前SAP 社 CIO、Ingrid-Helen Arnold(ハイネケン社取締役会在任時期:2019 年以降)、エヌジェン・パートナーズLLC マネージングディレクター、Rosemary L Ripley(2019 年以降)など。

  • 統合された事業計画策定アプローチ活用により、中核機能を単一のプラットフォームに統合。JDA ソフトウェア社とのパートナーシップ開始から6 年が経過した現在、サプライチェーン、販売、マーケティング、財務、調達をすべて単一のクラウドベースのプラットフォーム上に統合することに注力している。

  • 先進的なデジタルとテクノロジーを担当する役職を新設。前米国ハイネケン社マネージングディレクター、Ronald den Elzen を当社初の最高デジタル・テクノロジー責任者に任命。CEO に直属し、データと分析に関して直接報告し、CEO を補佐する。

CEOと取締役会が問うべきこと

真の変革には、組織の戦略目標と、リーダーシップおよびカルチャー上の要請とを整合させることが必要です。

01. 将来のディスラプションを見据え、自社のデジタルとテクノロジーの活用の水準について疑問を投げ掛けるこ とができる、適切なデジタルとテクノロジーのスキルセットを取締役会が備える体制が確保されていますか。

02. リーダーのサクセッションプランは、テクノロジーが推進力となる戦略を支援・推進し、幅広い業務とテクノロジーへの知見を備えた有能なリーダー候補者を育成するものですか。

03. 次世代のデジタル人材とテクノロジーのエコシステムが新たな組織で活躍できるように、どのように支援していますか。

04. デジタルとテクノロジーの組織能力を強化するために、新たな人材と新たな役割が必要なのは、どの領域ですか。また、既存の従業員のリスキルと研修(組織の「中間層」を次世代のスキルセットと意思決定に活用する)に投資すべきなのは、どの領域ですか。

05. 単独のリーダーの下でフロントエンドとバックエンドのテクノロジー機能を整合させるために、また、その間に位置する中核的ビジネス機能をデジタル化するためには、何を変革する必要がありますか。

06. 自社のカルチャーは、デジタル・トランスフォーメーション、アジャイルな機能横断的協働、及び/或いは、データに基づく意思決定に対する大きな障壁になりますか


執筆者

George Head

テクノロジー・オフィサーズ・プラクティスのナレッジ・アソシエイト。ロンドン拠点。テクノロジーセクター全般にわたり幅広い業務に従事。新たなトレンドの特定とクライアントの優先事項の体系化に注力している。