明らかに、企業はこれまで以上にCHROに依存しており、ますます不確実性を増す経営環境を乗り切るために経験豊富なリーダーを重視しています。
しかし、これらのグローバルな傾向は、現在の日本の状況を反映しているのでしょうか?状況の違いとその背景にはどのような要因があるのでしょうか?その背景を探るべく、ラッセルレイノルズアソシエイツの川合潤氏に話を聞きました。
日本の労働市場にはいくつか独特な点があると思います。まず、終身雇用の伝統が長く続いており、年功序列が深く根付いています。歴史的に見ても、多くの人が同じ雇用主のもとでキャリアを全うしてきました。また、企業が従業員を自由に解雇することができない厳しい法律や規制も存在します。これまで転職は否定的にみられてきましたが、こうした状況は変わり始めています。企業は終身雇用にこだわることができなくなる一方、若い世代はキャリアアップのために転職に対してよりオープンになっています。
もうひとつの大きな違いは、日本の人口構造です。ご存じの通り、日本では労働人口の高齢化と出生率の低下が進んでいます。人口の約30%が60歳以上であり、少数の若者が多数の高齢者を支えるという逆ピラミッド構造が生じています。そのため、若いリーダーシップ人材の絶対数が不足しており、これが激しい競争を引き起こすだけでなく、これらの人材の確保が困難になる要因ともなっています。
最後に、日本は他の先進国と比べてジェンダー・ダイバーシティの面で依然として遅れをとっています。特に管理職レベルにおいて、もっと女性の参加が必要です。女性役員の数は増加傾向にあるものの、依然として人事や法務、財務といった管理部門に集中しがちで、ビジネスユニット内の戦略的かつコマーシャルな役割には少ないのが現状です。
少子高齢化が進む日本では、企業が求める成長を達成するためにグローバル展開が不可欠です。そのため、CHROには日本国内のみでの経験にとどまらず、国際的なビジネス経験を持つ人材が求められています。
同時に、日本の労働法により、日本企業はシニア層の従業員を活用する新たな方法を模索する必要があります。これには、新たな役割を担えるようにリスキリングを行うことが含まれます。例えば、30年間メカエンジニアとして働いてきた社員がいても、会社が機械製品の製造を中止した場合、それを理由にすぐに解雇することはできません。そこで、企業は例えばプログラミングのトレーニングを行うなどのリスキリングが必要となります。
はい、しかし他の市場とは異なる理由があるかもしれません。RRAのグローバルCHRO離職指数によれば、世界中の企業は「不安定な時代に安定した手腕」を必要とするため、CHROを保持する傾向にあるとされています。日本でもそのような傾向が一部見られるものの、ここでは労働慣行という別の要因も関係しています。社内で既に働いている人を社外からの新しい人材に置き換えたい場合、まずは既存の従業員にその仕事を任せる機会を与えることが求められます。
つまり、採用には非常に高いコストがかかることを意味します。そのため、すでに自社の状況を深く理解し、十分な成果を出しているCHROがいる場合、わざわざその人を置き換えるためにコストと手間をかける動機は少なくなります。
ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン(DE&I)は、日本本社の企業および日本で事業を展開する多国籍企業の両方にとっての課題です。日本では歴史的に女性の労働力参加率が低かったため、市場において経験豊富な女性人材が根本的に不足しており、DE&I推進に必要なリソースが不足する状況が生じています。
加えて、国内企業と外資系企業では課題の内容が異なります。
まず第一に、コーポレートガバナンスについてです。上場企業は、株主に対して人的資本に関する方針やデータを開示することが求められるケースが増えています。また、投資家を惹きつけるために説得力のあるストーリーを構築する必要もあり、人事最高責任者(CHRO)にとって新たな課題となっています。
国内企業にとってもう一つの課題は、しばしば人事部門とビジネスリーダーとの間にギャップが存在することです。そのため、より緊密な協力関係を築き、人事戦略がビジネス戦略と整合するようにすることが、優先課題の一つとなっています。
先に述べた通り、リスキリングはもう一つの重要な課題です。日本の労働法では従業員を解雇することが難しいため、企業はたとえ関連経験が不足している分野であっても、既存の人材を活用する新たな方法を見つける必要があります。
最後に、報酬もまた課題となっています。外資系企業は一般的に国内企業よりも高い給与を提供するため、国内企業にとって人材の採用と定着がより困難となっています。
通常、外資系企業では専任のCHROではなく、Head of HRが任命され、本社が定めた人事ポリシーを現地法人として遵守するよう監督する役割を担っています。しかし、日本の労働法の影響により、外国企業は他国で採用しているような柔軟な採用や解雇の方針を同じように適用することができません。
海外からの事前設定された方針を、現地の人事マネージャーがどのように地域の法規や文化に沿って適用するかを決定するのは彼らの役割となります。しかし、戦略策定には実際に関与していないため、いわゆる外資系における人事マネージャーは、今日企業がCHROに求める戦略的なビジネスパートナーシップのスキルを身につけることが難しいと感じることあります。
Jun Kawai is a member of Russell Reynolds Associates’ Technology Sector.
Keiko Shimada is a senior member of Russell Reynolds Associates’ Board & CEO Advisory Group.
1 RRA Global Leadership Monitor – H2 2024
2 RRA Global CHRO Turnover Index